吉見町のごみ焼却施設のこと(弥永健一)

―東松山市長を被告とする訴訟準備書面2についてー

 

新聞報道によれば、いろいろな問題を抱えた吉見町大串地区に建設されることになっていたごみ焼却施設の計画は中止になり、9市町村(吉見町、東松山市、小川町、嵐山町、桶川市、滑川町、ときがわ町、川島町、東秩父村)を構成団体とする埼玉中部資源循環組合は来年3月末に解散することになったとされます。このごみ焼却施設建設計画に反対するいくつもの訴訟が提起されていますが、東松山市長あいての訴訟もそのひとつです。用地買収の段階に入る前に計画中止に踏み切った吉見町町長の決断は、遅ればせながら評価できますが、無理と嘘を重ね、住民との約束を反故にして進められてきたこの計画についての反省はされず、今後のごみ処理施設新設計画の行方についても心配されます。

東松山市長あいての訴訟は取り下げることはできません。

東松山市長あいての訴訟について、これまでの経過などを簡単に説明します。この訴訟(平成31年(行ウ)第3号損害賠償請求行使等請求事件 2019117日 さいたま地方裁判所第4民事部)は、森田光一市長が吉見町ごみ焼却施設建設のために市の公金から資源循環組合に負担金を支出したことは違法であり、市に損害を与えたので、賠償を求めるというものです。原告は市民2名です。弁護士無しの本人訴訟ですが、多くの方々からお力添えをいただき、自分たちで調べ、考え、相談しながら続けています。

ごみ処理施設が、都市生活を送る私たちにとって必要であることは確かです。ごみ焼却施設も、残念ながら無くてはすみません。焼却施設からは、通常は濃度は高くはありませんが、ダイオキシンなどの有害物質や重金属類などが排出され、気候変動を悪化させるCO2も大量に排出されます。重大な事故が起これば周辺住民や自然環境に被害が及びます。このようなリスクがある施設の建設地の選定には十分な検討が必要です。計画段階からマイナス面についても明らかにし、一部の住民に犠牲を押し付けてすませることは絶対に避けるべきです。

計画地の隣にはほぼ30年稼働している埼玉中部環境保全組合のごみ焼却施設があります。この施設については建設当時、住民による強い反対運動がありました。周辺の環境はごみ焼却施設建設には適さず、住民被害も予想されたからです。反対のためのやぐらもたちました。行政による切り崩しにあって自殺者もだしながら続けられた住民の抵抗は押し切られ建設反対訴訟が継続中に施設は稼働し始めました。反対住民はやむなく裁判の和解を受け入れましたが、和解条項には大串地区を含めて周辺地区にはこれ以上ごみ焼却施設を造らないという取り決めがありました。当時の吉見町長が保全組合の管理者として和解にサインしました。数年前に、元吉見町長の新井保美氏から、大串地区に新しい焼却施設を建設する話がでたとき、住民たちは信じられない気持ちだったようです。「解条項違反でしょう。」と抗議した住民たちに、新井元町長は、「新施設の建設は保全組合ではなく、新たに設立された資源循環組合がします。私は保全組合の管理者だが、ここでは循環組合の管理者としてお話ししています。保全組合との和解のことを持ち出されても筋違いです。」というような言い逃れをし、反対意見を切って捨てました。裁判の和解を守ることは保全組合にとって債務事項に当たり、その債務は組合管理者である吉見町も町として分担して負うべきものです。吉見町が大串地区で新施設建設を進めることは債務不履行に当たり違法です。

計画地は、もともと水田地域で、農業振興地区でした。ごみ焼却施設を建設するためには、埼玉県に都市計画の変更を求め、計画地を農業振興地区から除外(農振除外)してもらわなければなりません。そのために、新井元町長たちは、周辺住民が計画推進を求めているように偽装することが望ましいと考えたのでしょう、「住民要望書」が計画地周辺地区の区長さんたちによって地域にまわされました。実は30年程前から、保全組合のごみ焼却施設建設の見返りとして、余熱を利用する温水プールなどを造ってほしいという要望が町にだされていましたが、棚上げにされていました。そのことを受けて、今回は新たな施設建設に伴い、長年の願いだった温水プールなどを造ってほしいとの内容の署名用紙がまわされたのです。しかし、新施設が大串地区にできることについては明確な説明はなく、署名簿は反対派住民の家にはまわされませんでした。「要望書」には多くのひとびとが署名しましたが、提出の際に書面は住民たちの断りなしに変えられ、「温水プール」の文字は消えて、よりあいまいな、「健康増進施設」に変えられました。文面は、まるで新施設建設を積極的に歓迎しているように読めるものにされて提出されたのです。これは、住民によって署名簿の提出を委託された区長たちが、もともとの書面を、善意をもって管理するべき義務に反した違法行為(善管義務違反)です。準備書面1で述べたように、「要望書」の改ざんを知った住民たちの半数近くが署名を取り消しました。それにもかかわらず、新井元町長たちは、改ざんされた「要望書」を新施設建設が住民によって歓迎されていることを示す書類だとして使いました。

計画地の近くには市野川と荒川が流れています。1012~13日の台風の時には市野川が氾濫し、計画地の隣にある保全組合の施設前の道路は冠水し通行禁止になりました。荒川が氾濫したら被害はけた違いになっていたでしょう。吉見町が出している洪水ハザードマップから、荒川が氾濫するような大災害時には計画地は2~5メートルの水につかることが読み取れます。同じく吉見町が発行した地震ハザードマップからは、巨大地震の際に、計画地周辺は震度7の揺れに襲われ液状化する可能性が高いことがわかります。ところが、新井元町長は、農振除外申請文書のなかで、計画地で想定される浸水被害の程度はそれほどではなく、1メートル程度のかさ上げで対処できるし、大地震のときも液状化の可能性は少ないなどと、嘘をつきました。このあたりのことについて、準備書面2で詳しく述べています。

準備書面2にはダイオキシンや水銀による被害について述べています。計画通りにごみ焼却施設ができていたら、大災害時に施設の機能停止や損壊事故などが起こり、ダイオキシンや水銀などの有害物質が漏れだす可能性もありました。東松山市を含む組合構成市町村のごみ焼却は長期にわたりストップすることになったでしょう。計画地から70メートルほどの場所には住宅地があります。計画地から1.5km以内には200世帯以上の住民たちが暮らしています。ダイオキシンなどが漏れだせば長期にわたって人が住めない場所になるおそれもありました。計画地からほぼ200メートルの場所には、埼玉県衛生研究所があります。コレラ、チフス菌や危険なウィルスなどを扱う施設です。ごみ焼却施設での大事故に伴い、この研究所の管理が不可能になり、危険物質が漏れだしたらどうなることになったか、背筋が凍る思いです。

裁判で、被告側弁護士は、この計画のために東松山市が支出した負担金は適切な手続きを経て支出されており、計画が違法かどうかには関わりなく、原告がこの訴訟で述べている主張は失当であり、訴訟を速やかに棄却するように裁判所に求めています。原告側主張については、ほとんど反論もしないまま、ただ、「不知、争う」とだけ述べて済ませています。原告の準備書面3では、このような被告側主張こそ「失当」であることについて述べる予定です。

原告側準備書面2は、103日に提出されました。その後、いくつか訂正するべきことが見つかり、最終的な訂正文は1015日に提出しました。訂正内容を入れ込んで、書き直したものが、今回みていただく「公表版」です。日付も1015日にしてあります。助言、コメントなどいただければ嬉しいです。(2019.11.14)