2019年(平成31年)(行ウ)第3号 損害賠償請求行使等請求事件

原告 A

      B

 

被告 東松山市長

準 備 書 面 1

2019年6月19日

さいたま地方裁判所第4民事部合議1係 御中

第1             訴状にある誤記について

1 請求の原因第1項にある「比企郡東松山市」は、答弁書第2 1項にある通り、「東松山市」の誤記である。

2 同第2項にある「宮崎義雄」は、答弁書にある通り「宮﨑善雄」の誤記である。

第2             答弁書にある誤りについて

1 和解について

  答弁書第23項の「(1)について」に

30年以上前の和解契約については、被告は当時の組合に加入していないし、当事者でもないので詳しいことは分らない。」

と述べられている。ここにある「和解契約」は、訴状に述べたように1986年(昭和61年)に債権者である吉見町住民 Wらと債務者 埼玉中部環境保全組合(以下、「保全組合」。)との間に結ばれた和解のことであり、その内容は甲第4号証に明示されており、現在も有効である。更に、平成26311日付で被告を含む埼玉中部清掃協議会構成者宛に、上記債権者代理人 白井正明弁護士から提出された申入書(甲第11号証)にも上記和解についての詳しい説明があり、本件事業の見直しなどが求められている。なお、同申入書には、訴状の請求の原因の第4の(1)に述べた住民要望書に関して

   「埼玉中部清掃協議会は(中略)平成25年8月頃に4人の発起人に依頼して町民から要望書署名を集めさせて、平成25年9月19日に広域清掃協議会会長に提出せしめた。…」

等と記され、同要望書が住民により本件ごみ焼却炉建設が望まれていることを偽装するものであり、埼玉中部清掃協議会会長宛に提出された文書は署名原本とは異なる内容に作り替えられたことについての抗議も記されている。

   申入書に対して被告を含む市町村長らにより平成26411日付で『「申入書」に対する見解について』(甲第19号証 以下「回答書」。)が出されている(公印は省略されている)。「回答書」のなかで、和解につき以下のように述べられている。

   「昭和61225日に成立した和解は、34名の債権者と埼玉中部環境保全組合の間に成立したもので、現在、新しいごみ処理施設の整備に取り組んでいる埼玉中部清掃協議会とは別の団体であることから、前記和解条項の効力が及ぶ範囲ではないことは、厳然とした事実であります。」

ここに見られるように、被告は和解についての知見を得ていたのであり、答弁書にあるように、「30年以上前の和解契約については(中略)詳しいことは分らない。」ということは当たらない。なお、「回答書」には上記「要望書」について

   「また、協議会は、平成258月頃に、4人の発起人に対して、要望書の取りまとめと提出を依頼した事実は、いっさいありません。」

などと述べている。協議会は平成252013)年41日に発足した。それに続き、平成252013)年59日以降、新施設建設について検討するため、吉見町内に広域清掃推進会議が設立され、同年59日、524日及び78日に会議が開催されている(甲第20号証)。「要望書」が提出された同年919日はその後のことである。これら会議議事録について、原告Aは情報公開制度に基づき開示を求めたが、会議出席者名簿以外は非開示とされた(甲第20212223号証)ので、会議内容については不明である。しかし、「要望書」のとりまとめに先立ち、広域清掃推進会議メンバーにより新たなごみ処理施設の建設を求める要望書の提出が望まれる旨の意思表示がなされた可能性が高く、発起人らの行為は、これを受けてなされたものである疑いが濃厚である。(この事柄については、準備書面2で詳しく述べる。)

   さて、和解の効力について答弁書は

   「なお、「保全組合と若山氏等との間に成立した和解条項の負債は、吉見町をはじめとする構成自治体が負った」という主張は誤りである。保全組合と構成市町村は、いずれも独立した法人格を有する地方公共団体であり、2次的に組合構成者が負うべきものということにはならない。」

と述べている。この主張は訴状を歪曲して引用し、原告らの主張につき理解を欠いたまま述べられている。訴状に述べたように、保全組合は和解により本件ごみ処理施設建設計画地を含む場所でごみ処理施設を新設または増設する権利を失うことを内容とする債務を負った。同組合は吉見町をはじめとする3自治体によって構成される一部事務組合であり、構成自治体は共同で組合の事務を行う。上記の債務も吉見町等3自治体が共同で負うべきものである。確かに、一部事務組合は地方自治法上法人格を与えられているが、このことが直ちに、組合の対外的負債について、構成員各自の責任を免除することには直結しない。組合契約は組合員の全部義務が原則であり、法人債務であっても、構成員の債務となる場合もあり得る。これは地方公共団体が自らの事務を行わせるために事務組合を通して対外的に第3者と契約した場合、第3者に対して構成団体が免責されてよいのかという問題でもある。市内のごみ処理を民間企業に発注しておいて、事務組合が破たんしたから構成市は責任を持たないというのでは、本来的な地方公共団体としての使命に反することは当然である。現実に一部事務組合の規約はそのようになってはいない。規約は、それに記載されている事項に関する限り、法律または政令に定めのあるものに次いで優先的に適用されるものである。埼玉中部環境保全組合規約第14条(経費)で、「組合の経費は、組合の事業(財産)より生ずる収入及びその他の収入をもってこれに充てなお、不足と認められたときは次の割合をもって組合市町が負担する。」と定められている。これは事務組合が独立採算をしているのではなく、構成市町もその債務の負担(全部責任)を負っていることを示している(甲第24号証)。仮に以上のような構成をとらないとしても、吉見町が別法人(別の一部事務組合)を立ち上げて、別法人であるから、従前の組合の約束は知らないなどと主張することは明らかに権利の濫用である。以上の通り、現在も保全組合の管理者である吉見町が本件土地にごみ処理施設を新設することは和解違反であって違法である。埼玉中部資源循環組合(以下、「循環組合」。)が保全組合とは別人格であるとしても、循環組合の管理者である吉見町が本件事業に携わる限り同事業は違法である。訴状3頁に述べたように、違法な本件事業に被告が公金を支出することは違法であって東松山市に損害を与える。

2 焼却炉の規模について

   保全組合が使用している現行の焼却炉は、一日当たり80tのごみを焼却できる炉3基から成る。3基が同時にフル回転すれば一日当たり240tのごみを焼却できるが、3基の焼却炉を持つ同種の施設では1基は休止させるのが通例である。現行の施設でも、一日当たりのごみを焼却容量は通例160t以下であろう。(甲第25号証)ところが本件焼却炉は一日当たり114tのものを2基新設する計画である(甲第26号証)。焼却炉が2基の場合には、そのうちの1基を休止させる余裕はないのが通例であり、新施設は一日当たり228tまでのごみを焼却する能力を持つ。保全組合の構成者は3自治体であるのに比べて循環組合の構成者は9自治体にのぼることからも、新施設で処理するごみの量は現行施設のものを超えることは当然である。また、新施設の焼却炉が2基であることは、事故等が発生する際に焼却炉が3基である場合よりも対処が困難になることも予想される。ところが、答弁書では、

   「また、吉見町にある現行のゴミ処理施設(埼玉中部環境保全組合)の施設規模は、一日当たり240tで、予定の新ゴミ処理施設の規模は、ほぼ同じである。」

と極めて杜撰な主張を述べている。

3 憲法第25条の無視、行政訴訟についての理解欠如

   答弁書第2の3の(1)には、

   「新ゴミ処理施設の建設に当たっては、環境影響評価によって事業の実施による環境への影響を調査、予測、評価して公害防止や自然環境の保全を図るものであり、健康被害、環境破壊の起こる可能性が高いなどは、原告の憶測に過ぎない。そもそも原告らの居住区域は、東松山市であり、ごみ処理施設の建設区域から遠く離れており、環境破壊を主張する資格はない。」

と述べられている。原告 ABの居住地は、それぞれ、ゴミ処理施設の建設区域から西へ約8km、西北へ約8kmの距離にあり、建設地から直近の位置にあるとはいえない。しかし、それだから、原告らには「環境破壊を主張する資格はない。」のだろうか。原告らの住む東松山市の公金によって建設され、原告らの生活に伴って発生するごみの処理を原因としてごみ処理施設周辺で環境破壊が起こり住民に健康被害が発生するとしても、処理施設から遠いものたちには、環境破壊について発言する資格がないのだろうか。「自分たちの出すごみを処理することにより、遠方の住民に被害が及んでも、自分たちには被害が及ばなければ、なにもいうことはない。」という考え方は、ごみ処理施設建設、操業にあたり、最も避けるべきものである。

   新施設の建設、操業により、周辺住民に健康被害が及び、環境破壊が発生する蓋然性が高いとするならば、憲法第25条「全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に反することになり、建設は違法である。違法な事業に東松山市の公金が使われるならば、それは同市に損害を与える。本訴訟は同市に損害を与える公金支出についての是正措置を求める行政訴訟であり、答弁書はそのことについて理解しておらず、また、憲法第25条を無視している。

   なお、「環境影響評価がなされているので、環境破壊などは起こらない。」とはいえず、本件事業についても、環境破壊、健康被害が起こる可能性がある。

4 住民の反対の声

   答弁書には

   「住民の皆さん反対の声については、飯島新田地区などごく限られた地区の一部の住民から反対の声があることは事実であるが、「大串地区の住民から強い反対意見」が寄せられている事実はない。」

と述べられている。訴状4頁の2行目にある「大串地区」は「大串地区周辺」とするべきであった。訴状では、本件ごみ処理施設建設の禁止を求める訴訟が、循環組合を被告として平成3096日に起こされていることについて述べた。循環組合の構成員である被告は同訴訟について認識されているはずであり、訴訟原告12名のうち、11名が大串地区周辺の飯島新田住民であり、残る1名が大串地区住民であることもご存じのはずである。吉見町が積極的に推進している本件事業の禁止を求めて同町住民らが訴訟を起こすためには覚悟と、訴訟を持続するための様々な条件がそろうことが必要であり、原告らのやむにやまれぬ行動について「ごく限られた一部の住民から反対の声があることは事実であるが…。」とすることは極めて不当である。また、原告のなかに、大串地区住民が含まれていることは、同地区住民のなかに強い反対意見があることを意味する。仮に、本件事業についての反対意見が少数であるとしても、それ故に反対意見を軽視し、少数者を犠牲にすることを正当化することは許されない。

   また、訴状の4の(1)「要望書」の改ざん の項で述べたように、大串地区周辺住民が本件事業を要望していることを偽装する「要望書」(甲第30号証)が、提出時にすりかえられたことを指摘して、署名の取り消しを求めた反対住民の行動(甲第31号証)に多くの住民が応じた。住民に回覧された「要望書」には江和井区長、川島町芝沼区長、高尾新田区長、久保田新田区長、蓮沼新田区長、ニュータウン江和井区長が名をそろえ、飯島新田は代表で、区長ではなく発起人が、同7地区住民に回覧された。(甲第32号証)(訴状で「柴沼」と書いたのは、答弁書に指摘されているように、「芝沼」の誤記である。)「要望書」については、後に再度述べるが、区長らが名を出して回覧されて署名を求められ、しかも、要望の内容が7年前に提出され、棚ざらしにされていた「温水プール・農産物直売所」等の建設を求めるもの(甲第27号証)であって、新施設の建設が住民との和解違反に当たることについて知らされなかったならば大多数(「要望書」が受け付けられた平成25919日現在で自治体加入世帯の88.2%)の住民が署名に応じたとしても不思議はない。(「東第2地区等の要望書の状況」 甲第2829 号証 による。)要望書の内容がすり替えられていたことを知らされても、一度署名したものを、区長らの意に反して取り消すことは容易なことではない(甲第33号証)。それにも拘わらず、多くの住民らが反対住民の呼びかけに応え、その結果、署名者世帯数は平成26610日現在で47.2%に減じた(34号証)。ただし、上記7地区のなかで全世帯数の約9.4%を占める久保田新田地区では、例外的に署名取り消し数が少なく当初署名世帯が90.6%だったものが、平成26610日までに2世帯が取り消し署名世帯は84.4%に減じた。同地区を除く6地区について見ると署名世帯数は当初87.3%であったものが、137世帯が取り消し最終的には43.3%に減じている。とりわけ、世帯数の24.5%を占める飯島新田の署名世帯は、当初66.3%であったものが、当初署名した55世帯のうち、23世帯が取り消し最終的には27.7%に減じている(甲第34号証)。これは周辺住民の多くが反対住民らに共感していることの証左である。(地図 甲第35号証参照。)なお、前述した反対住民による行動を受けて、平成25116日に清掃協議会事務局長が要望書発起人、関係地区区長らに、同行動についての協議を呼びかけ、翌117日に会議が開かれている(甲第36号証、甲第37号証)。同会議については準備書面2に述べる。

5 「要望書」について

   答弁書の4の(14頁に

   「平成241126日に開催された関係市町村長連絡会議において、新ゴミ処理施設の建設場所を決定した。という事実はない。」

と述べられている。この部分に当たる訴状8頁の文面は

   「「要望書」提出に先立つ平成242012)年1126日には清掃協議会の前身である連絡会議で新ごみ焼却施設建設場所は事実上大串地区に決定されている。」

というもので、答弁書では「事実上」という部分が削除されて引用されている。これは訴状の4頁で述べたように、上記連絡会議で、当時の吉見町町長が新施設の建設場所について「現在の中部環境の付近とお考えいただきたいと思います。」と発言し、それに対する異論などは記録されていないことから、「事実上大串地区に決定されている。」と述べたものである。答弁書の引用は不正確である。

   また、答弁書には、「要望書」の改ざんに関して

  「また、要望書を提出した発起人によれば、提出された要望書の文面は、「より多くの皆さんに読んでいただくために、分かりやすいものを」との考えから、署名依頼時の文面を短くまとめたもので、改ざんしたものではなく(平成25118日「署名した皆さんへ」)、改ざんしたというのも原告の推測に過ぎない。」

と述べられている。ここに引用されている平成25118日付の「署名していただいた皆さんへ」の文章は、署名発起人及び関係地区区長の連名によるもので

   「協議会に提出した要望書は、1枚目のとおりです。2枚目は、署名をお願いした時に添えたものです。これは、「多くの皆さんに読んでいただくために、分かりやすいものを」との考えから、今回の要望の主旨を短くまとめたものです。」

と書かれている(甲第30号証)。答弁書では、この文章を誤解し、提出された要望書の文面が依頼時の文面を短くまとめたものなどとしている。依頼時のものと提出されたものとを読めば、依頼時の文面がより短いことは一目瞭然である。これら2種の文面につては訴状(78頁)に引用した。依頼時の文面は、新施設の建設を寄与のものとしてとらえ、それに伴って、7年前に要望したままになっている「温水プール・農産物直売所」などの設立を求めるもの(甲第27号証)であるが、提出された文面からは、「温水プール・農産物直売所」の部分は消え、「近年建設されているごみ処理施設は、発電など効率的な余熱利用が進展し、ごみ処理に伴って回収したエネルギーを生かした処理施設と聞いております。」などと、新施設の建設を歓迎する表現が加えられている。

   依頼時の文面が「より分かりやすいものを」などとされているのは、住民には提出された要望書の文面が理解しにくいだろうという差別的な文言である。提出されたものは依頼時のものとは異なり、新施設建設を歓迎する内容に改変されていることは隠しようもない。依頼時の要望書に署名した住民は、署名発起人 宮澤正紀、田島実、神田勝、横田政二 及び関係6地区区長及び飯島新田代表(飯島新田区長は名を連ねていない)らに、「温水プール・農産物直売所」などの建設を求める文書の提出を委任したのであり、これは民法第656条に定められる「準依頼」に当たる。これを受任した発起人、区長らは、民法第644条に定められる「受任者の注意義務」(善管義務)を負う。委託された文面を委任者らに無断で改変することは同義務に反する違法行為である。

5 「住民の反対意見の切り捨て」について

   答弁書5頁に、「大串地区で説明会を開催した事実はない。」とある。訴状117行目に「大串地区で」と記したのは、「大串地区周辺地区で」とするべきであった。

ところで、答弁書4頁の「建設候補地の選定及び建設予定地の決定は」に続く「③候補地の比較、検討、評価」に関して、訴状10頁に述べたように、候補地の評価基準のなかに、周辺住民の理解と協力が得られる可能性についてのことが欠けている事実は重大であり、そのことについて、答弁書は何も述べていない。

6 「第3 被告の主張」について

   上記第21にも述べたように、訴状3頁及び同12頁「結語」にもある通り、本件事業は違法であり、違法事業に被告が公金支出をすることも違法、東松山市に損害を与える行為であるが、答弁書は訴状の主張を読み落とし、理解を欠いたまま「そもそも市町のいかなる行為が損害賠償責任を生ずるのか(中略)明らかにされたい。」と述べている。また、答弁書には「本請求では、書類の偽造とか吉見町に関する主張が殆どであるが、被告は吉見町の職員ではない。」と記されているが、まず、訴状では「要望書」の改ざんについて述べたが、「書類の偽造」についての記載はない。また、吉見町は循環組合の管理者であって、被告は同組合副管理者であることが理解されていない。新施設建設計画が様々な脱法、違法行為を伴い、環境省による「ごみ処理基本計画策定指針(甲第18号証)」にも反することについて訴状で述べたことは、本件事業の違法性が阻却され得ない事実を示すためである。なお、本件事業が環境破壊、住民の健康被害を起こし、訴状で述べた「スケール・デメリット」を免れないこと等について、準備書面2において具体的に述べる。

以上